脂質異常症(高脂血症)とは
- 定義
- 血液中の脂質(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪〈トリグリセライド〉など)が正常範囲から外れている状態
- かつては「高脂血症」と呼ばれていたが、2007年4月より「脂質異常症」と呼ばれるようになった
- 主な脂質の種類
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール):動脈硬化を進行させる一因とされ、過剰になると心血管疾患のリスクが高まる
- HDLコレステロール(善玉コレステロール):余分なコレステロールを回収し、動脈硬化を防ぐ働きがある
- 中性脂肪(トリグリセライド):エネルギー源として利用されるが、過剰に増えると動脈硬化や肝機能障害などにつながる可能性がある
脂質異常症(dyslipidemia)とは、血液中の脂質バランスが崩れ、動脈硬化のリスクが高まる病態のことを指します。LDLコレステロールが高い状態だけでなく、HDLコレステロールが低い場合や中性脂肪が高い場合も問題となるため、総称して「脂質異常症」と呼ばれるようになりました。
高コレステロール血症(特にLDLが高い状態)が代表的ではありますが、「HDLが少ない」「中性脂肪が高い」といった様々なパターンが含まれます。脂質異常症は自覚症状がほとんどなく、気づかないまま動脈硬化が進行して重大な病気を引き起こすことがあるため、定期的な検査や早期の対策が大切です。
原因
- 生活習慣要因
- 高カロリー・高脂肪の食事
- 運動不足
- 喫煙・過度の飲酒
- 遺伝要因
- 家族性高コレステロール血症など遺伝的体質
- 他の病気や薬剤の影響
- 糖尿病や甲状腺機能低下症、慢性腎臓病など
- 利尿薬やβ遮断薬など、一部の薬剤が脂質代謝に影響する場合もある
脂質異常症を引き起こす原因は多岐にわたりますが、最も大きな要因とされるのは食事や運動などの生活習慣です。特に動物性脂肪(飽和脂肪酸)を多く含む食事や、揚げ物などで過剰なエネルギーを摂取する食生活はLDLコレステロールや中性脂肪を上昇させる要因となります。さらに運動不足によって余分なエネルギーが消費されず、中性脂肪が蓄積しやすくなります。
また、遺伝性の脂質異常症も存在し、家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia, FH)などでは若い年代から極端にLDLコレステロールが高い状態になりやすいとされています。他の病気や薬剤の使用によっても脂質代謝に影響が及ぶことがあるため、医療機関での診察時には服用中の薬や合併症も含めて情報を伝えることが大切です。
主な症状
- 自覚症状の乏しさ
- 軽度から中等度まで進行しても、ほとんど症状が出ない
- 進行した場合の危険性
- 動脈硬化が進み、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など重篤な病気が発症する可能性が高まる
脂質異常症は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同様に「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と呼ばれることがあります。それは、症状が顕在化しないまま動脈硬化が進むからです。動脈硬化が悪化してくると、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)や脳血管障害(脳梗塞など)のリスクが上昇し、突然重篤な症状が出現することがあります。
そのため、自覚症状がなくても検診や健康診断で数値に異常が見られた場合は、早めに生活習慣の改善や医療機関での受診を検討する必要があります。
検査と診断
- 血液検査
- LDLコレステロール値
- HDLコレステロール値
- 中性脂肪(トリグリセライド)値
- 判定基準
- LDLコレステロール:140 mg/dL以上が高い
- HDLコレステロール:40 mg/dL未満が低い
- 中性脂肪(トリグリセライド)空腹時150mg/dL以上(非空腹時175mg/dL以上)
- 定期的な健康診断の重要性
- 早期発見のために健康診断を年1回は受けることが推奨される
日本では、LDLコレステロールが140 mg/dL以上、HDLコレステロールが40 mg/dL未満、中性脂肪が150 mg/dL以上という値が、脂質異常症の診断基準として広く用いられています。実際には、個人のリスク要因(喫煙、高血圧、糖尿病など)や家族歴なども考慮され、医師が総合的に判断します。
脂質異常症は、健康診断や人間ドックの血液検査を受けることで初めて発覚することが多く、定期的な検査が早期発見・予防の要です。とくに40歳を過ぎるとコレステロールや中性脂肪が上がりやすいため、年齢を重ねるほど意識的に健康診断を受ける必要があるでしょう。
分類
- 高LDLコレステロール血症
- LDLコレステロールが140 mg/dL以上
- 動脈硬化のリスクを高める主因
- 低HDLコレステロール血症
- HDLコレステロールが40 mg/dL未満
- コレステロールの回収がうまく行われず、動脈硬化が進みやすくなる
- 高トリグリセリド血症
- 中性脂肪が150 mg/dL以上
- 肝臓での脂質代謝に負担をかけ、肥満や脂肪肝の原因にもなる
脂質異常症は、血液検査で何が基準値から外れているかによって細かく分類されます。最も頻度が高いのはLDLコレステロールの上昇によるタイプですが、HDLコレステロールが低下しているタイプや、中性脂肪が高いタイプも同様に注意が必要です。
複数の異常が同時にみられる「混合型」もあり、心血管疾患リスクがさらに高くなります。複合的な管理が必要な場合も多いため、医師の指示に従って治療方針を決めることが重要です。
合併症
- 動脈硬化
- 血管の内壁にプラーク(コレステロールなどの蓄積)ができ、血管が狭く・硬くなる
- 心筋梗塞・狭心症
- 冠動脈が詰まったり狭くなったりして、心臓への血流が不足する
- 脳梗塞・脳卒中
- 脳の血管が詰まる、または破裂することで、脳機能に障害が生じる
- 糖尿病、高血圧との相乗効果
- 脂質異常症と同時に発症していると、心血管疾患リスクがさらに上昇
脂質異常症の最大の問題は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞など生命を脅かす疾患につながる点です。LDLコレステロールが高く、HDLコレステロールが低い状態ではプラーク形成が進みやすく、血管壁にダメージが蓄積していきます。
動脈硬化が進行すると、血管内の通り道が狭くなり、血流が著しく悪化するほか、プラークが破綻して血栓を形成し、心臓や脳に大きな障害をもたらすことがあります。また、脂質異常症は高血圧や糖尿病とも合併しやすく、これらの生活習慣病が重なると心血管病リスクが相乗的に高まります。
生活習慣の改善
- 食事療法
- 飽和脂肪酸(バター、ラード、脂身の多い肉など)の摂取を控える
- 不飽和脂肪酸(魚の脂、オリーブオイルなど)の摂取を増やす
- 食物繊維(野菜、海藻、きのこ類、豆類)を積極的に取り入れる
- 運動療法
- ウォーキング、軽いジョギングなど有酸素運動を週150分程度行う
- 日常生活でも階段を使うなど活動量を増やす
- 禁煙・節酒
- 喫煙は動脈硬化を促進し、HDLコレステロールを減少させる
- アルコールは適量(日本人男性で1日20g程度のエタノール摂取量相当)が望ましい
脂質異常症の治療において第一に行われるのは、生活習慣の改善です。特に食事面では、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取を抑え、青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸(EPAやDHA)や、植物性オイルのオレイン酸などをバランス良く取り入れることが推奨されます。また、食物繊維はコレステロールの吸収を抑える働きがあるため、野菜、海藻、豆類などを多めに摂ることが望ましいです。
さらに、運動不足を解消するために週150分程度の有酸素運動(ウォーキングやスロージョギング、サイクリングなど)が推奨され、これによりHDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減少させる効果が期待できます。喫煙はHDLコレステロールを低下させるとともに、血管内皮機能を損ねるため、禁煙も重要です。
薬物療法
- スタチン系薬
- LDLコレステロールの産生を抑える
- 心血管疾患予防効果が比較的高いとされる
- フィブラート系薬
- 中性脂肪を低下させる
- HDLコレステロールを上昇させる働きがある
- エゼチミブ
- 腸管でのコレステロール吸収を抑制する
- PCSK9阻害薬
- 重症例や家族性高コレステロール血症などで用いられることがある
- LDLコレステロールを劇的に下げる効果があるが、費用が高額
生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合や、すでに心血管イベントのリスクが高いと判断された場合には、薬物療法が検討されます。最も一般的に使用されるのはスタチン系薬で、LDLコレステロールの合成を抑制しつつ、動脈硬化の改善効果が期待されます。中性脂肪が高い場合やHDLコレステロールが低い場合はフィブラート系薬が適用されることが多く、コレステロール吸収を抑えるエゼチミブ、さらに重症例ではPCSK9阻害薬なども登場してきました。
薬物療法を行う際は、医師の指示に従い、定期的な血液検査で効果と副作用のチェックを行うことが不可欠です。また、薬だけに頼らず、同時に食事や運動などの生活習慣の見直しを続けることで、より高い治療効果が期待できます。
定期的な受診と経過観察
- 定期検査
- 血液検査を定期的に行い、LDLやHDL、中性脂肪の数値をモニタリングする
- 合併症の早期発見
- 心電図検査、頸動脈エコー、心エコーなど、必要に応じて検査を追加
- 治療方針の調整
- 数値や生活習慣の変化に応じて、薬の種類や用量、生活改善の指導内容を変更
治療を開始したあとも、血液検査などによる定期的なチェックが必要です。とくにLDLコレステロールや中性脂肪は、生活習慣の変化や薬物療法の効果によって短期間で変動することがあります。定期的に数値を把握し、必要に応じて医師と相談しながら治療方針を柔軟に調整しましょう。合併症を早期に発見するため、追加の検査(頸動脈エコー、心電図、心エコーなど)を受けることも重要です。
食事療法の具体例
- エネルギー摂取量のコントロール
- 適正体重(BMI 22程度)を維持できるよう、摂取カロリーを調整
- コレステロールや飽和脂肪酸を控える
- バターやラード、脂身の多い肉、揚げ物などを減らす
- 不飽和脂肪酸の活用
- 青魚(サバ、イワシ、サンマなど)や植物油(オリーブオイル、菜種油)を適度に使用
- 食物繊維の増加
- 野菜、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物をバランスよく取り入れる
- 調理法の工夫
- 蒸す、茹でる、焼くなど、油を使いすぎない方法を選ぶ
具体的な食事療法としては、まずは摂取カロリーを見直し、適正体重を維持できる食事量を心がけることが重要です。脂質異常症の改善には、コレステロールや飽和脂肪酸を含む食品(特にバターやラード、霜降り肉など)を控える一方、魚の脂に含まれるEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸を摂るとよいとされています。
また、食物繊維を多く含む野菜や海藻などは、コレステロールの体外排出を助ける作用が期待されるため、毎食しっかり取り入れると効果的です。
さらに、調理法を工夫することで余分な脂肪分を減らすことができます。揚げ物ばかりに偏るのではなく、蒸す・茹でる・焼くといった方法を選択すると、摂取する脂質量を抑えることが可能です。
運動の重要性
- 運動の効果
- HDLコレステロールの増加
- 中性脂肪やLDLコレステロールの低減
- 血糖値や血圧の改善
- おすすめの運動
- 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など)
- ややきついと感じる程度の運動を週3~5回、1回30分程度
- 日常生活での工夫
- エスカレーターではなく階段を使う
- こまめに歩く・ストレッチをする
運動習慣を身につけることで、脂質異常症の改善および予防に大きな効果が期待できます。適度な有酸素運動は、エネルギーを消費して中性脂肪を減らすだけでなく、HDLコレステロールを増やすはたらきもあります。とくに週150分程度の有酸素運動(例えば1日30分×週5回)を継続すると、心肺機能の向上や血圧のコントロールにも効果があるとされています。
忙しくてまとまった運動時間が取れない方でも、できる限り日常生活に運動を取り入れる工夫が重要です。通勤時にひと駅分歩いたり、エレベーターやエスカレーターではなく階段を利用したりといった小さな積み重ねが、長期的には大きな効果に結びつきます。
予防
- 生活習慣の見直し
- 食事バランス、運動習慣、禁煙・節酒の徹底
- 定期健康診断の受診
- 40歳以上は年に1回以上の健診が望ましい
- ストレスマネジメント
- 過度なストレスはホルモンバランスを乱し、食生活の崩れを招く
脂質異常症を予防するためには、基本的に生活習慣を整えることが重要です。特に現代人は仕事や家事などで多忙を極め、運動不足や食生活の乱れが生じやすい傾向にあります。意識的に自分のライフスタイルを振り返り、改善できる部分から取り組むことが大切です。さらに、年に1回は健康診断を受け、血液検査を通じてコレステロールや中性脂肪の値を定期的に把握することで、早期にリスクを発見しやすくなります。
また、ストレスが過度にかかると暴飲暴食や喫煙量の増加、睡眠不足などに陥りやすく、脂質代謝を悪化させる原因となります。ストレッチやリラクセーション、趣味の時間を作るなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが長期的には予防に役立ちます。
注意点・Q&A
- コレステロールの高い食品を絶対に避けるべき?
-
極端に制限する必要はなく、飽和脂肪酸が多い食品を摂りすぎないように注意する。コレステロールそのものは体に必要な成分でもある
- 脂質異常症だとわかったら、すぐに薬を始めるべき?
-
まずは生活習慣改善を行い、その効果を見ながら医師と相談して決定する
- どれくらいで数値は改善する?
-
生活習慣を変えてから数週間~数か月で変化が現れることが多いが、個人差あり
- 受診のタイミング
- 健康診断で指摘されたら早めに受診
- LDLコレステロールが160 mg/dL以上、または中性脂肪が300 mg/dL以上など大幅に基準値を超える場合は速やかに相談
脂質異常症については、誤解が多い部分も存在します。例えば、卵やエビなどコレステロールを多く含む食品をまったく口にしないようにするなど、過度な食事制限を行う必要はありません。重要なのはバランスの良い食事を継続し、飽和脂肪酸を過剰に摂らないように心がけることです。
また、検査数値が高いと診断されても、即座に薬を開始するとは限りません。生活習慣の改善だけで十分に数値が改善するケースも多々あります。どの程度まで生活習慣で対応できるか、医師や管理栄養士と相談しながら取り組むとよいでしょう。大幅に基準値を超える場合や、心血管病のリスクが高い場合などは、薬物治療を並行して行う必要があります。
参考情報
- 信頼できる情報源・ガイドライン
- 日本動脈硬化学会が策定する「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」
- 国立循環器病研究センターの情報ページ
- 医療機関の受診を勧める場合の目安
- LDLコレステロールが140 mg/dL以上
- HDLコレステロールが40 mg/dL未満
- 中性脂肪が150 mg/dL以上
- セルフモニタリング
- 食事日記や運動記録をつけて、数値変化を実感しながら生活習慣の改善を続ける
情報の真偽を見極めるためには、公的機関や医学的に信頼できる学会が提供する資料を参考にするとよいでしょう。日本動脈硬化学会が公表しているガイドラインや、国立循環器病研究センター(NCVC)のサイトでは、脂質異常症や動脈硬化に関する多くのデータや研究成果がまとめられています。医療機関に相談する際も、これらの基準値やガイドラインを踏まえて自分の状態を把握しておくとスムーズです。
まとめ
- 脂質異常症(高脂血症)は、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が高い、またはHDLコレステロールが低い状態を指し、動脈硬化を進行させるリスクが高い。
- 自覚症状がほとんどなく、「サイレント・ディジーズ」と呼ばれることがあり、気付かないうちに心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気につながる恐れがある。
- 主な原因には、高脂肪の食事や運動不足といった生活習慣要因、家族性高コレステロール血症などの遺伝要因、あるいは薬剤や他の病気の影響がある。
- 診断は血液検査で行われ、LDLコレステロールが140 mg/dL以上、HDLコレステロールが40 mg/dL未満、中性脂肪が150 mg/dL以上などの数値が目安とされる。
- 治療・対策としては、まず生活習慣の改善(食事療法・運動療法・禁煙・節酒)が優先され、それでも改善が十分でない場合やリスクが高い場合には薬物療法が検討される。
- 食事療法の具体例としては、不飽和脂肪酸を積極的に摂取し、飽和脂肪酸やコレステロールを多く含む食品を控え、食物繊維を増やすことが挙げられる。
- 適度な有酸素運動を週150分ほど行うことで、HDLコレステロールの増加、中性脂肪の低減などが期待できる。
- 予防には、定期的な健康診断で血液検査を受け、日頃の生活習慣を振り返ることが重要。ストレスマネジメントも含めて、長期的な視点で対策を行うことが大切。
- 脂質異常症は他の生活習慣病(糖尿病、高血圧など)と合併すると心血管疾患のリスクがさらに高まるため、総合的な健康管理が欠かせない。
- 数値に異常が見つかった場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師や管理栄養士から適切な指導や治療を受けることが望ましい。